1. 相原新菜
昨夜、蔵星重工本社に忍び込んだ私は、社長の蔵星雄貴と工場長の上総重禄斎を含むマルチファイター開発関係者十数名を、次々と短銃やサバイバルナイフで殺害した。
私は殺し屋として任務を遂行したまでであり、いつもならそれ以上の感情は抱かないようにしている。
だが、今回の場合はそうはいかなかった。
蔵星重工のマルチファイター開発を阻止せよ―というのが今回私に課せられた任務であったわけだが、具体的に殺す人間は名指しされてはいなかった。人数も特に制限はなかった。
こんな任務は初めてだ。下手をすれば単なる無差別殺人になりかねない。
依頼主はわからないが、おそらく鈴木重工、あそこはマルチファイターで出し抜かれたら蔵星重工に業界トップの名声を奪われてしまうからな。それにしても非道いだろう。
とにかく、関係のない人間を巻き込むことはプロとしてのプライドに関わるので、まずは蔵星重工のことを徹底的に洗い出す必要があった。
そこで私は、身内の人物に直接接触することによって上手い具合に聞き出せないだろうかと考えた。
ターゲットは蔵星レミと上総進の2人。レミは社長の娘で、進は工場長の孫だ。
2人は高校2年生で、同じ高校の同じクラスだった。
実際の年齢はこういう仕事柄明かすわけにはいかないが、もともと外見年齢が相当若く見られて今まではかなりこのことにコンプレックスを抱いていたのだが、今回これを逆手に取り、高校2年生の少女になりすまして2人に接触することにした。
接触期間は4〜6月の3ヶ月。
レミは極度のファザコンで社内事情にも大変詳しく、また進はマルチファイターに興味があり、2人にくっついて何度か本社に入ることも出来た。
全く、ウソみたいな展開で私も最初はかなり戸惑った。
実際、必要な情報は1ヶ月もあれば揃ったのだが、生まれてこの方殺し屋としての教育しか受けずに育ってきたので、普通の学生生活というのが非常に新鮮で、つい3ヶ月も2人に接触し続けてしまった。
だが、そんな甘い生活も長くは続かなかった。事件が起きたのである。
進が念願のパイロットライセンスを取得したことを祝って、マルチファイターの試作機“クラスター1”に試乗。
ところが、試作機ゆえに計器類に不備があり、熱源感知型のサーチレーザーを誤射してしまい、同時刻に社有林で試運転を行っていた鈴木重工の戦車“ダンディライオン”に命中、全滅させてしまったのである。
戦車の搭乗員が全員死亡という大惨事となり、鈴木重工は当然大激怒。
私の任務の遂行期限が一気に繰り上がったのである。そして昨夜…という具合だ。
私がぬくぬくと学生生活を楽しんでいなければこんな惨事も起きなかっただろう。
全ての責任は私にあるように思える。しかし、これは単なる運命の悪戯に思えてならない。
今回は蔵星重工が引き金になって事件に及んだ。
だが、鈴木重工が、はたまた他の企業が引き金となってこのような事件が発生する可能性は多分にあるのだ。
でも、私が一番可哀想なことをしたと思うのは、私が接触したレミと進の人生を大きくねじ曲げてしまったことだ。 2人の夢も家族も何もかもを奪い取ってしまった。
今日の教室は閑散としている。
学校一のカップルである進とレミがいないのだから。
そろそろ私も去らなければならない。
学校からではなく、表舞台からだ。
仮面を脱ぎ捨てても拭いきれない過去がある。
私はこれから、その過去のために生きて償わなければならない。
それを諦めたとき、私は私に向かって引き金を引くことになるだろう…。
2. 鈴木理愛
懐から取り出されたそれは、カチャっという金属音を立てて少女の手中に収まった。
そして、目の前の中年の男に向かって勢いよく腕を伸ばし、銃口を心臓に向けた。
「死んで!」
白くて細い人差し指を引き金にあてがうと、ゴクっと唾を飲んでキッと男を睨み付けた。
「あなたのせいで今までに何人の人が悲しい思いをしたのかわかってるの?」
銃身を支える両腕が小刻みに震えている。
「わかっているさ…でも、」
「でもじゃない!」
少女の叫びが男の声を打ち消した。
少女は息を荒げ、なおも男を睨み続ける。
「昨日、お兄ちゃんは…あなたの息子の柴人は戦車の中で死んだわ!」
それまで無表情だった男の目が、一瞬見開いた。
「知っているんでしょう? 自分の作ってきたものが人殺しの道具であることを! それが原因で家族を失ってしまったことを!!」
男は言葉を失ったような表情をしてうつむいた。
肩がガタガタと震えているように見える。
「私は…私はあなたの娘であることを恥じるわ!」
さっきからここには雨が降っていた。
それが今では男の、理愛の父である前衛の胸の内を表しているように思えてならない。
急に降りが強くなり、少女の服に深い染みを作っていった。
「悔いなさい。さもなくば撃つわよ!」
バシャっという音を立てて少女の足が一歩前に出た。
勢いよく跳ね上がった泥水が少女の足下を汚した。
少女にはそこに立っているという感覚すらもうないだろう。
引き金に掛かった人差し指も冷えて痺れてその触覚を失ってしまってるに違いない。
「…済まなかった、私は家族の気持ちなど、考えたこともなかった…」
ようやくしっかりと口を開けてしゃべった男の頬に、すっと一筋の涙が流れた。
そしてゆっくりと少女に近づいて、左手で銃を思い切り払いのけると、そのまま右手で胸元に抱き寄せて、包み込むように泣いた。
そして、少女の瞳からも、安堵の涙が流れ始めた。
3. 白石瑞希
「私達は何の強要もしないわ」
「自分自身でよく考えて決めなさい」
食卓の向こう側で母と父がそう言った。
両親が勤めていた近藤造船という会社はマルチファイターで“モーニングスター”という新型の戦闘機を開発していて、両親はその設計に深く携わっている。
ところが、業務提携を結んでいた蔵星重工の社長が殺害され、マルチファイター事業から撤退。
近藤造船も開発断念を余儀なくされ、技術者の多くは他社に流れているの。
父は竹熊建機へ、母は佐倉エアロ社へ行くことが一昨日決まったわ。
2人とも同じ会社なら何の問題もなかったんだけど、この2社はお互いに敵対していて、それで両親の仲もギスギスしてしまって、結局離婚することになってしまった。
しかも、佐倉エアロ社は米資本の会社だから海外勤務になりそうなんだって。
「うん。ごちそうさま…」
部屋に戻ってそのままベットに寝ころんで…宿題があるけどそんなの考えてる余裕なんてないよ。
だって今晩中に決めないと、週明けには引っ越しが始まってしまうし…。
父が好きとか母が好きとか、どちらかにひいき出来ればこんなに悩むことはないのに、親不孝者の私は2人ともそんなに好きではないの。
男女関係なく研究室に泊まり込みで研究に没頭して、ストレス発散でSEXして私が出来ちゃったから籍を入れたなんて無責任すぎるよね。
それに、家に帰ってきても仕事の話ばかりするし、私が構って欲しいときには無視するし、そのくせ都合のいい時だけおもちゃみたいに扱われる私の立場にもなって欲しい。
ふぅ…どうすればいいんだろう私。
「みずきぃ〜、入るぞぉ」
するといきなり、父がノックもせずに部屋に入ってきた。
たまにこういう事があるから慣れっ子と言えばそうなんだけど、なんだか今日は様子がヘン。お酒臭いし…。
「お父さん! 部屋に入ってくるときはノックくらいしてよね」
上半身だけ起こしてそう言ったけど、父は部屋を出ていくようではなかった。
それどころか、そのままベットに向かってくるじゃないの!
「へへへっ…、みずきは母さんよりもいい身体になったなぁ〜」
やばい。
父は酔っぱらっているので、私がベットに寝転がっているのを、して欲しがっているのと勘違いしてしまっている。
なんとかしないと…。
私がそう思っている間に、父はベットに乗っかって私の身体を押さえつける。
「やめてっ、お父さんやめてーっ!」
父が相当なストレスを抱えていることはわかってる。
母も毎日疲れ切って帰ってくるので夜の生活で相手をしていないというのも想像がつく。
でも、だからって実の娘である私で性欲を晴らそうなんてないでしょーっ?!
「ふぇっふぇっふぇっ…一度みずきの胸を触ってみたかったんだぁ〜」
ダメだ、ダメだダメだダメだぁ…、完っぺきに煩悩に支配されてしまっているわ。
でもお父さんの体重と力で身体の自由が利かないし…でもこのまま犯されるなんて絶対、絶対いやーっ!
…そうだ!
「助けてお母さん! 助けてーっ!!」
するとドッドッドッと廊下を走る音が聞こえてバーンとドアが開いた。
「お母さん!」
私の目に飛び込んできた母は、エプロン姿で仁王立ちをしていて、とっても勇ましく見えた。
「???」
私に乗っかっている父はドアの開く音でビックリしたらしく、まだ状況が掴みきれていないようだ。
「いつかはやるんじゃないかと思っていたわ、このエロオヤジーっ!!」
母は右手を握りしめ、額の血管を浮き上がらせて鬼の形相を見せつける。
「おまえがSEXしてくれないから悪いんだ! お…俺はみづきと結ばれるんだぁ!!」
そう言い放った父は、力任せに私のスカートを捲りあげ、パンティーを破り捨てた。
「キャアアアッ! いやいやいやーっ、私まだ処女よーっ!!」
既に父には瑞希が実の娘であるという意識はないらしく、瑞希の悲鳴も聞かずについに破裂寸前の大陸間弾道弾を瑞希の股間に押・し・当・て・た!!
すると母はとっさにエプロンのポケットから2丁の拳銃を取り出して、まるで西部劇みたいにくるくるっと回転させて構えた。 そして、父の局部を狙って引き金を引いた!
「いっぺん地獄に堕ちやがれーっ! このこのこのクソオヤジがーっ!!」
「うぎゃあーっ!」
父は飛び上がった。パラパラと飛んでくるのはBB弾だった。
「どうよウエイト弾の威力は、ああん?」
「痛いです! 痛いです! 痛いです!」
父はちょっと萎んだ大陸間弾道弾をトランクスにしまい込むのに必死だ。
「痛いならはよ瑞希から離れんかい、このドアホ!!」
そして母はトドメと言わんばかりにエアガンを父の頭と下腹部に向かって投げつけた!!
「ぐえっ…」
どたどたっとベットから転げ落ちた父は、口から泡を吹いて失神していた。
「…お母さん!!」
私は得も言われぬ恐怖から解放されて、思わず母に寄り添い抱きつこうとした。
ところが、母は父を引きずって部屋から出ようとしていた。あれっ?
「そんなことはあとあと! それより早く家を出る準備をするのよ!いい?」
「う…うん」
私は呆然と、母に言われるままに家を出る準備を始めた。
壁にはさっき母がぶん投げたエアガンが突き刺さっていた…(汗)。
父が目覚めることを恐れた母と私は、夜明けを待たずに家を出た。
そして、佐倉エアロ社の用意した飛行機でそのままアメリカへと渡ったのでした。
私は昨夜、生まれてはじめて母の偉大さというものを知ったわ。
これからはずっと母を愛していくと思う。
追伸 父へ。お幸せに。